2024.03.23
日本時間2024年3月11日に、アメリカ、ハリウッドにあるドルビーシアターにおいて、第96回アカデミー賞の授賞式が開催されました。
今回作品賞を受賞したのは、「オッペンハイマー」。原子爆弾の開発に携わった物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた作品でした。
監督は「ダンケルク」等、日本でも高く評価されているクリストファー・ノーランで、彼は監督賞も受賞しました。
「オッペンハイマー」は、ほかにもキリアン・マーフィーが主演男優賞、ロバート・ダウニー・Jr.が初演男優賞を。さらに編集賞、撮影賞、作曲賞と、計7部門でアカデミー賞を獲得したのです。
さて。今回の主題はここからなのですが、上記の通り、助演男優賞はロバート・ダウニー・Jr.が受賞しました。日本でも「アイアンマン」主演、トニー・スターク役でお馴染みの彼ですが、彼の受賞の際のやりとりが、大変な物議を醸す事態となりました。
アカデミー賞のトロフィーであるオスカー像は、昨年の受賞者から渡される運びとなっています。昨年アカデミー助演男優賞を受賞したのは中国系ベトナム人であるキー・ホイ・クァン。生徒の保護者さん世代には、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」や「グーニーズ」に出ていた子役として覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。
クァンが、受賞者としてロバート・ダウニー・Jr.の名を呼び、オスカー像を持って、ダウニーの登壇を待っています。今年は、オスカー像を授与するクァン以外にも、歴代のアカデミー賞獲得者たち5人もステージに立っていました。
万雷の拍手にこたえるように、登壇中に客席へ手を振ってから、ステージ上がったダウニー。歴代オスカー俳優たちがずらりと並ぶ中、クァンから差し出されたオスカー像を、クァンと目も合わせずにさっと掴んで、ティム・ロビンスと握手を交わし、サム・ロックウェルとグータッチを行った後、受賞スピーチに入りました。
全世界に中継されたその映像を見た人たちから。「これではまるでクァンがウェイターかなにかのようだ」「なんて無礼な態度だ」というような批判がSNSに上ったのです。
例年なら、アカデミー受賞者は、オスカー像を渡してくれた昨年受賞者とハグを交わし、感謝を示すのが恒例です。しかし、ダウニーはクァンと目すら合わせず、クァンがオスカー像のあとに渡そうとした封筒にも気づきませんでした。
さらに、主演女優賞の発表でも、昨年の受賞者で、アジア系であるミシェル・ヨーを、今年受賞したエマ・ストーンがスルーしたように見えたことで、さらに「白人によるアジア人差別論」が炎上することになったのでした。
ハリウッドの昔の白黒映画などを観ると、出てくるアジア人は、召使いなどの位置にいることが多く、名前も明らかに中国人に見えるのに「カトー(加藤)」だったりして、個人としてきちんと見られていなかった過去を垣間見ることができます。今回のアカデミー受賞式のダウニーの振る舞いは、まさにクァンを召使扱いしているようにも見えてしまいます。
個人的な見解の述べさせていただければ、ダウニーの動きは、差別の現れだとは思えません。壇上に上がったダウニーは、5人もいるオスカー俳優たちの、誰に挨拶すればいいかわからずに、きょろきょろしながら、目の前の俳優たちに指を指している様子が見られます。おそらく「you? you??」(誰に挨拶すればいい? あなた? それともそちら?)みたいな様子だったのだろうと感じています。
しかし、実際に、アメリカ在住のアジア系住民の中には、仲間外れにされたり、存在を軽んじられたと感じている人々がいて、そのような方が声を挙げたことは事実であるようです。
差別があるかないか。アメリカ在住経験のない筆者にはわかりかねますが、ヒトの脳による顔認識には、「人種効果」と呼ばれる現象があることがわかっています。これは、自らの人種の顔は、他の人種の顔より認識に優れる、という現象です。
周りに「外国人(白人)の顔はみな一緒に見えるんだよね」という日本人、いませんでしょうか? セリフだけ抜き出すと非常な差別意識の持ち主の発言に見えますが、ヒトの脳の顔認識能力が事実セリフの通りであることはいくつもの研究で示されており、これは人種で他人を差別してやろう、という悪意とは何も関係がありません。白人種の方もまた、差別意識の有無に関わらず、アジア系人種への顔認識能力は低いのです。
アメリカ在住の日本人の方が、いつも「きみ中国人?」と聞かれて気分を害する話や、ヨーロッパから日本に旅行している人が「日本人はイギリス人とフランス人とドイツ人の違いをまったくわかっていない」なんて話を、差別の表れとして聞いたことがありますが、それは悪意の表れではなく、脳の機能なのです。
あらゆる差別は根絶するよう人間は努力すべきですが、なんでもかんでも差別だ! よくない! と目くじらを立てることも、正しいとは言えないかもしれません。