横浜六浦教室のメッセージ
源氏物語と猫~若菜下・猫はねうねうと鳴く
2023.02.20
2月22日は、にゃんにゃんにゃんの語呂あわせで「猫の日」です。
「源氏物語」にも猫が出てきます。
衛門督(ゑもんのかみ)柏木と女三の宮の恋物語の中で、
紫式部は猫を巧みに使ってストーリー展開しました。
「源氏物語」第35帖若菜下(=わかなげ)から抜粋です。
桜舞い散る、春の麗らかな日のことです。
柏木は、六条院の庭で夕霧たちと蹴鞠(=けまり)を楽しんでいました。
柏木は、抜群の足さばきで人々を魅了します。※柏木=源氏の息子・夕霧の親友
若者たちの熱気が伝わったのか、室内の女房たちも、胸をときめかせながら
御簾(=みす)越しに蹴鞠見物をしていました。
とその時、一匹の小さな唐猫が、御簾のすそから走り出てきたのです。
首につけた長いひもが引っかかったのか、さっと御簾が引き上げられ、
庭から女たちの姿があらわになりました。
その中に、紅梅襲(がさね)を着たかわいらしい女三の宮が立っているのを、
柏木は見逃しませんでした。※女三の宮=源氏の妻
憧れの女性の姿に、感動で胸を震わせます。
唐猫を抱き上げ、彼女の残り香をかぐのでした。
丸見えになったことに気づかない女房たちに、夕霧が咳払いで注意すると、
ようやく女三の宮も部屋の奥に入りました。
当時、身分の高い女性が夫以外に顔を見せるのは、あってはならぬことでした。
このような場合も、奥で顔を隠しているべきだったのです。
柏木は、自分の思いだけでも伝えたい、と女三の宮に文を送ります。
「よそに見て 折らぬなげきは しげれども なごり恋しき 花の夕かげ」
女三の宮は初め、無邪気なさまで手紙を読んでいましたが、
ふと蹴鞠の日に柏木に姿を見られたことに気づき、驚きます。
源氏から他の男性に顔を見られることがあってはならぬと、厳しく戒められていました。
源氏に知られたら、どんなに叱られることか、と女三の宮は震え上がるばかりでした。
一方の柏木は、女三の宮の女房から、
「高嶺の花に恋してはだめです」と言われても、あきらめられません。
せめて、女三の宮が飼っているあの猫だけでも手に入れたい、
と彼女の兄である東宮に熱心に頼み込むのでした。
動物嫌いの柏木が、この猫とだけはともに寝、起きれば世話に余念がありません。
来て、ねうねう、といとろうたげになけば、かき撫でて、うたてもすすむかな、とほほ笑まる
(猫が来て「ねうねう」〈寝よう寝よう〉とたいそうかわいらしく鳴く。
恋慕うあの方のよすがと思って手なずければ、お前はどういうつもりで
そんな声で鳴くのだろう。)
猫には人の心を惑わす魅力がある。猫好きなら納得していただけるでしょう。