城南コベッツ横浜六浦教室

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横浜六浦教室のメッセージ

枕草子第184段「宮にはじめてまゐりたるころ」~清少納言の初出仕

2024.04.15

宮にはじめてまゐりたるころ、もののはづかしきことの数知らず、涙も落ちぬべければ、
夜々まゐりて、三尺の御几帳の後ろにさぶらふに、絵などとり出でて見せさせ給ふを、
手にてもえさし出づまじうわりなし。
「これは、とあり、かかり。それが、かれが」などのたまはす。
高坏にまゐらせたる大殿油なれば、髪の筋なども、なかなか昼よりも顕證に見えて
まばゆけれど、念じて見などす。いとつめたきころなれば、さし出でさせ給へる
御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、かぎりなくめでたしと、
見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしましけれと、
おどろかるるまでぞ、まもりまゐらする。
暁にはとく下りなんといそがるる。「葛城の神もしばし」など仰せらるるを、
いかでかはすぢかひ御覧ぜられんとて、なほ伏したれば、御格子もまゐらず。
女官どもまゐりて、「これ、はなたせ給へ」などいふを聞きて、女房のはなつを、
「まな」と仰せらるれば、わらひて帰りぬ。
ものなど問はせ給ひ、のたまはするに、ひさしうなりぬれば、
「下りまほしうなりにたらむ。さらば、はや。夜さりは、とく」と仰せらる。
ゐざりかへるにやおそきとあげちらしたるに、雪降りにけり。
登花殿の御前は、立蔀近くてせばし。雪いとをかし。(後略)

【現代語訳】
(中宮定子様の)御所に初めて出仕申し上げたころ、気が引けてしまうことがたくさんあり、
(緊張で)涙もこぼれ落ちてしまいそうなほどで、夜ごとに参上しては、三尺の御几帳の後ろに
お控え申し上げていると、(中宮様が)絵などを取り出して見せてくださるのを、
手さえも差し出すことができないほど(気恥ずかしく)、どうしようもない状態でいます。
「これは、ああだ、こうだ。それが、あれが」などと(中宮様が)おっしゃいます。
高坏にお灯しして差し上げさせた火なので、(私の)髪の筋などが、かえって昼よりも
際立って見えて恥ずかしいのですが、(気恥ずかしいのを)我慢して、絵を拝見します。
とても(寒く)冷える頃なのですが、(中宮様が)差し出されるお手がかすかに見え、
(その手の)美しさが映えて薄紅梅色であることが、この上なく美しいと、
(まだ中宮様のことをよく)わかっていない(田舎心地の私のような)者には、
このような人がこの世にいらっしゃるのだなぁと、じっと見つめ申し上げています。
夜明け前には、早く退出しようと気がせかれます。
「(自分の醜さを恥じらう例えで)葛城の神も、もうしばらく(いなさい)」
と(中宮様が)おっしゃるのですが、(私は)なんとかして、斜めに向かい合って
(私を)ご覧いただこうとして、やはりうつぶしているので、御格子も
お上げ申し上げずにいます。女官たちが参上してきて、
「これを、お開けください」などと言うのを聞いて、
(他の)女房が(格子を)上げるのを(中宮様は)「(上げては)だめ」
とおっしゃるので、(女房たちも)笑って帰っていきました。
(中宮様が私に)あれこれお尋ねになり、お話されるうちに、だいぶ時間がたったので、
「(初めての宮仕えで)退出したくなってしまっていることでしょう。それならば、
早く(退出しなさい)。今夜は、すぐに(いらっしゃい)」と(中宮様が)おっしゃいます。
膝をついた状態で移動して(退出して自分の部屋に)帰るやいなや、
(格子を)むやみやたらに上げたところ、(外には)雪が降っていたのでした。
登華殿の御前は、立蔀が近くに立ててあって狭いです。雪はとても風情があります。