横浜六浦教室のメッセージ
枕草子の時代と環境~研究枕草子より
2024.04.25
枕草子には決して暗さや醜さはえがかれていない。
それは人間の否定ではなくて、肯定の文学である。
この点においては源氏物語もまた同様である。
それらは疑いもなく一条天皇の後宮に咲いた美しい花に相違ない。
しかし、源氏物語の成立を作者紫式部の人間苦に求めず、
単に宮廷生活の絢爛の一面においてのみ眺めることは当を得ていない。
また枕草子の成立をはなやかな宮廷生活の心酔者の自讃という点からのみ
単純に断じ去ることはそれ以上に妥当性を欠くものであろう。
一言にして云えば、枕草子は敗者の記録である。
亡びゆくものへの挽歌である。
崩壊する権威への哀惜の文学である。
我々は枕草子をこの見地からもう一度考察し直さなければならない。
その考察は、枕草子およびその作者についての従来の諸家の通説的結論に対して
少なからぬ修正を要求することになるかもしれない。
そうして、古典時代の一見現代に無縁であるかのごとく見えるこの作品が、
実は現代に密接なつながりをもっていることをひしと我々に自覚させるに相違ない。
「研究枕草子」池田亀鑑著(至文堂、1963年)「枕草子の時代と環境」より引用