城南コベッツ横浜六浦教室

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横浜六浦教室のメッセージ

枕草子第106段「二月つごもり頃に」~清少納言の会心の上の句

2024.06.24

二月つごもりに頃に、風いたう吹きて空いみじうくろきに、雪すこしうち散りたる程、
黒戸に主殿司(とのもづかさ)来て、「かうてさぶらふ」といへば、よりたるに、
「これ、公任の宰相殿の」とてあるを、見れば、懐紙(ふところがみ)に、
 少し春あるここちこそすれ
とあるは、げにへふのけしきにいとようあひたるも、これが本はいかでかつくべからん、
と思ひわづらひぬ。「誰々か」と問へば、「それそれ」といふ。
みないとはづかしき中に、宰相の御いらへを、いかでかことなしびに言ひ出でん、
と心ひとつに苦しきを、御前に御覧ぜさせむとすれど、上のおはしまして、
おほとのごもりたり。主殿司は「とくとく」といふ。
げにおそうさへあらんは、いととりどころなければ、さはれとて、
 空さむみ花にまがへてちる雪に
と、わななくわななく書きてとらせて、いかに思ふらむとわびし。
これがことを聞かばやと思ふに、そしられたらば聞かじと覚ゆるを、
「俊賢の宰相など、『なほ内侍に奏してなさん』となん定め給ひし」とばかりぞ、
左兵衛督(さひやうゑのかみ)の中将におはせし、語り給ひし。

枕草子(岩波文庫)池田亀鑑校訂より

【現代語訳】
二月の末頃に、風がひどく吹いて、空がとても暗くて、雪が少し舞い散っている時、
黒戸に主殿司の役人が来て、「ここに控えています」と言うので、近寄ったところ、
「これは、(藤原)公任の宰相殿の(お手紙でございます)」
と言って差し出すのを、見ると、懐紙に、
 少し春らしい気分がするよ
と(書いて)あるのは、本当に今日の景色にたいそう合っている。
この歌の上の句はどのように付けるのがよかろうか、と思い悩んでしまった。
(私は)「(公任と一緒にいるのは)誰と誰か」と尋ねると、
「誰それ(がいらっしゃいます)」と言う。
皆たいそう立派な方たちの中に、宰相殿へのご返事を、どうしていいかげんに言い出せようか
(いや、言い出せない)、と自分一人の心で考えるのは困難なので、中宮様にお目にかけようと
したが、一条天皇がおいでになられて、おやすみになっている。
主殿司の役には「早く早く」と言う。
なるほど(下手な上にさらに)遅くまでもあるとすれば、たいそう取り柄がないので、
どうにでもなれと思って、
 空が寒いので、花かと見まちがえるように散る雪に(よって)
と、ふるえふるえ書いて(主殿寮の役人に)渡したが、どのように思っているのだろうかと
(思うと)つらい。
この返事の評判を聞きたいと思うが、悪く言われているならば聞くまいと思われるが、
「(源)俊賢の宰相などが、『やはり(清少納言を)内侍にと(天皇に)奏上してそうしよう』
とお決めになりました」とだけを、(今の)左兵衛督で(当時)中将でいらっしゃった方が、
(私に)お話になった。