メタバースは授業に活用できる?
VRを使った体育を教員が体験
インターネット上の仮想空間であるメタバースの教育利用をテーマに、茨城県教育研究会情報教育研究部が主催の研修会が8月8日、同県水戸市内の会場で行われた。県内の小中学校の教員と教育委員会関係者ら42人が参加。東京学芸大学の鈴木直樹准教授が事例を紹介しながらメタバースの教育利用について講演した後、参加した教員らが実際にVR(仮想現実)を使った体育の授業などを体験した。教員らは「想像していた以上に、リアルに近い感覚」「仮想空間を活用することが、子どもたちの恐怖心や羞恥心を取り除くきっかけになりそう」と授業での活用に可能性を感じていた。
鈴木准教授はこれまで体育の授業を中心に、メタバースを活用した実践や研究を重ねてきた。「メタバースとは三次元の仮想空間であり、VRは仮想空間を体験するための技術。VR機器がなくてもメタバースは利用できるが、VRがあれば、より没入度が高くなる」と説明。身近なメタバースとして「マインクラフト」などを挙げ、「子どもたちは知らず知らずのうちにメタバースを体験していて、すでに身近なものになっている」と指摘した。
これまで取り組んできた実践事例として、新潟県内の小学校で行われたVRを活用した跳び箱の授業動画を紹介。児童らがVRで跳ぶイメージをつかみ、その後、実際に跳び箱を跳ぶ練習を繰り返す様子が映し出された。鈴木准教授は「この授業では、教員は跳び箱の技術指導は一つもしていない。むしろ、教員は子どもたちに気付きを促すような発問をすることに集中していた。VRと現実ではギャップがあるので、子どもたちはそのギャップをどう埋めていくのかを自ら考え、工夫しながら取り組んでいた」と解説した。中には長年、恐怖心から跳び箱が跳べなかった児童がいたが、VRを活用した授業に4時間取り組んだところ、跳べるようになったという。「数時間の授業で技術が大きく変わることは難しくても、この児童のようにVRによって恐怖心が取り除かれることは多々ある」と説明した。
鈴木准教授は「体育に限らず、さまざまな教科においてメタバース活用の可能性がある。今までできなかったようなコミュニケーションが可能になる。教科横断型の学びや個別最適な学び、インクルーシブな学びの実現においても有効に活用できる」と強調した。また、「普段はあまり発言しないような子も、アバターを使うことで発言しやすくなる。メタバースは、恐怖心や羞恥心など、子どもたちの学びの障害になっていたことを乗り越えるための助けになる」と述べた。
研修会の後半は、参加した教員らが実際にVRを体験した。参加者の多くがVR体験は初めてで、VR機器を装着すると「わぁ!すごい!」と歓声が上がっていた。
水泳のVRを体験した教員は「思っていた以上に実体験に近い感覚だった。これは泳げない子がやってみると効果がありそう」と興奮した様子。「なにより授業が楽しくなりそう。大人でもこんなに楽しいんだから、子どもたちはもっと夢中になるのではないか」と話した。また、別の教員は「クロールの手の動きをいろいろ試してみたら、うまくストロークした方が速く進んだ。技術面でもとてもリアルに再現されている」と驚いていた。
中学校の教員は「実体験してみると、ものすごく可能性を感じた。どの教科においても、恐怖心や恥ずかしい気持ちなど、ネガティブな感情を持っている子どもたちはいる。VRで体験したり、アバターを通して活動したりすることで、ネガティブな気持ちをポジティブに変えるきっかけになれば、みんなが活発に主体的に授業に取り組めるようにもなるのではないか」と期待する気持ちを語った。 参加者からは、「社会科見学で普段行けないような場所を体験してみる」「リアルでは少し危ない実験などをやってみる」「国語の物語文の授業」「外国の人との会話」「思考力を育てる活動に使ってみたい」など、メタバースやVRが活用できそうな教育場面のアイデアが次々と出てきていた。同県教育研究会情報教育研究部長で水戸市立稲荷第二小学校の柳研二校長は「予算などの関係上、すぐにVRなどを各学校で導入することは難しいが、今回の研修で各校の教員がまず体験することができた。メタバース活用の可能性を大いに感じられたのではないか」と手応えを述べた。
(「教育新聞」2023年8月8日掲載記事参考)
<編集後記>
大人からすると、全く体験しなかったものが教育の現場に導入されるのを不安に思うところもあるかもしれませんが、記事にあるような子供・教師の反応から前向きに見ていきたいところです。できれば保護者にも体験の機会が設けられれば、より理解が進み、有効なものになるのではないでしょうか。
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